SAP CRMとは?日本には合わない?機能一覧や導入時の注意点
「SAP CRMは優秀なCRMと聞いたが、どのような機能を実装しているのだろう」
「SAP導入に失敗する企業が多いと聞くが、導入ハードルは高いのだろうか」
SAP CRMは最先端のAI技術を搭載したCRMツールで、拡張性の高さや分析能力に定評があります。
しかし、機能が充実していることから業態によってはツールを使いこなせない問題も起こりやすいです。
この記事ではSAP CRMの概要や機能一覧、導入メリットとデメリット、導入を検討する際の注意点を紹介します。
最後まで読めばSAP CRMが自社課題を解決できるCRMか理解でき、導入が必要か判断できます。
1.SAP CRMとは
SAP CRMとは、ドイツで開発された顧客関係管理ツールです。
- ドイツで開発されたCRM
- 顧客体験を向上させる豊富な機能を搭載
まずはSAP CRMの概要について説明します。
(1)ドイツで開発されたCRM
SAP CRMはドイツのSAP社が開発したCRM(顧客関係管理ツール)群の総称です。
顧客リストの管理や営業支援機能、ダイレクトメールやSNSの統合管理ができる機能が実装されています。
クラウド型の提供形態でモバイルデバイスにも対応しており、場所を選ばずシステムにアクセスできるのが特徴です。
クラウド型はSaaS型とも呼ばれ、ベンダーが提供するサービスにインターネット上で接続してサービスを利用します。
インターネット環境さえ整っていれば、どこからでもアクセスできるため、テレワークや外出の多い職種でも効果的に活用することができます。
また、サービスの保守管理はベンダーが行うため、利用する企業側でコストを負担することがないのがメリットです。
もっとも、利用にあたっては月額利用料などのランニングコストが発生することに注意が必要です。
CRMの費用相場や費用項目などについては、以下の記事で詳しく解説していますので、合わせてご参照ください。
(2)顧客体験を向上させる豊富な機能を搭載
SAP CRMは顧客体験を向上させるための豊富な機能を搭載しています。
- 顧客管理
- マーケティングプランニング
- キャンペーン管理
- リード管理
- マーケティング分析
- セグメント分析
- 案件記録
- 日報
- 見積作成
顧客体験とは、商品・サービス以外の価値も含めて顧客が得る体験を指します。
具体的には、顧客が商品・サービスに興味を持った時点から購入・利用までの一連の流れの中で顧客が得る価値や体験を言います。
これらのプロセスにおいて、顧客が自社商品・サービスとの接点を持つ段階ごとに適切な情報や価値を提供することができれば、顧客満足度の向上が期待できます。
SAP CRMは、マーケティングから営業活動、顧客関係管理と3つのプロセスをまたがって管理でき、部門間の情報共有や業務効率化をサポートします。
さらに、SAP CRMの利用により顧客ニーズを正しく理解できるようになり、顧客に最適化された対応ができるようになります。
これにより、顧客満足度を高めることができ、商品・サービスのリピートを促進して売り上げや収益を拡大することにつなげられます。
2.SAP CRMの特徴
SAP CRMの特徴は以下の3つです。
- カバーできる領域が広い
- 生成AIの活用など最新技術を活用できる
- リアルタイム性が高い
CRMの導入前は複数ツールを比較検討する必要があります。
SAP CRMの特徴を把握し、他ツールと比較して導入するCRMを決めましょう。
(1)カバーできる領域が広い
SAP CRMはカバーできる領域が広い点が特徴です。
そもそもCRMは、顧客の関係維持のためのツールであり、基本的に営業が獲得してきた顧客への対応がカバー領域となります。
しかし、SAP CRMはマーケティングから営業部門、顧客対応と3つの領域をカバー可能です。
1つのツールで3つの領域をカバーできるため、複数のシステムを乱立させずとも業務効率を上げられます。
また、1つのツールに部署や部門を横断した情報・データを集積することができるため、部署や部門を越えた情報共有や連携が可能です。
(2)生成AIの活用など最新技術を活用できる
SAP CRMには生成AIをはじめとした、最先端技術が実装されています。
マーケティングプランをAIが分析して最適化するのはもちろん、生成AIによるコンテンツの作成、質問への回答などが可能です。
たとえば、自社で運営するWebサイトの回遊データをもとに離脱率の低いコンテンツを生成したり、顧客からの質問に対してAIが自動的に回答する仕組みを利用できます。
(3)リアルタイム性が高い
SAP CRMに搭載されたエンジンは、顧客対応をもとにした提案をリアルタイムで表示できます。
通常のCRMは過去の応対履歴から、次の顧客対応の際にどうすべきかのアドバイスは可能でした。
しかし、顧客対応している最中に顧客への対応アドバイスができるツールはほぼなかったのです。
SAP CRMなら、新人の社員が顧客対応をする際にもシステムが自動的に対応アドバイスを出してくれるため、対応の質も向上します。
キャリアの年数によらず常に質の高い顧客対応ができるようになるため、顧客満足度も向上するでしょう。
3.SAP CRMの機能一覧
SAP CRMの主な機能を紹介します。
- 顧客情報管理
- 顧客問い合わせ管理
- リード管理
- ワークフロー
- 顧客分析
SAP CRMで特に顧客関係管理に関連する機能を5つ紹介します。
(1)顧客情報管理
SAP CRMは顧客情報管理機能を有しており、自社顧客や取引先の情報を一覧化できます。
氏名や連絡先はもちろん、SNSアカウントなど顧客が希望する連絡手段を全て登録できるため、顧客の要望に沿った接触が可能となります。
入力した顧客情報は即座に更新され、システムにアクセス権限がある社員に共有されるため、常に最新の顧客情報をもとに業務の遂行が可能です。
また、顧客情報を詳細に登録することで、セグメント分けや分析が容易になります。
そのため、顧客情報を取得して入力する場合には、可能な限り詳細な情報を登録することが望ましいです。
(2)顧客問い合わせ管理
SAP CRMでは顧客からの問い合わせ履歴の管理も実施できます。
メールや電話、SNSなど顧客とのやり取りを全て追跡し、集積して管理可能です。
さまざまなチャネルからの顧客の反応を統合管理できるため、顧客のニーズや自社への満足度を計測するのに役立つでしょう。
また、顧客情報との紐づけを行うことで、過去の商品購入履歴なども閲覧することができ、問い合わせ内容に適切に対応することが可能になります。
顧客の属性や状況に合わせた対応を行うことで、顧客の信頼度や満足度を高めることにもつながります。
このことは、自社の顧客対応の質を向上させるためにも有益と言えます。
(3)リード管理
SAP CRMではリード管理も可能です。
リードとはまだ取引に至っていない見込み顧客を意味します。
問い合わせなどを通じて自社商品・サービスに関心を持つリードに対して、適切なタイミングでアプローチを行うことで、商談につなげることが可能です。
具体的には、問い合わせが発生した直後に商品・サービスの案内や導入事例といった情報提供を行うことで、商品・サービスの購買意欲を高めることができます。
また、SAP CRMではリードを生む問い合わせフォームの作成も可能で、リードの創出から育成までを一貫して管理できます。
(4)ワークフロー
SAP CRMのワークフロー機能では、定型業務を自動化できます。
日報の提出や承認をワークフロー化して業務を効率化するなど、一定の流れが決まっている業務を自動化して業務効率を上げられます。
また、ワークフロー機能にはAIが組み込まれているため、回答パターンを学習してチャットbotとしての利用も可能です。
(5)顧客分析
SAP CRMは顧客分析機能も実装しており、蓄積した情報から顧客の全体像を明らかにするのに役立ちます。
蓄積した情報を分析してダッシュボードにレポートとして表示させることで、顧客ニーズを満たしているかどうか、売り上げと目標の乖離などを確認できます。
複雑な情報の分析結果を視認性の高いグラフや表で把握することができるため、必要な情報をすぐに把握・理解することができます。
また、1つのツールに必要な情報をすべて集積・管理しているため、分析作業の手間を省いて効率化が期待できます。
方針や施策を立案・検討するためのデータ分析・抽出を手間なく行えるため、迅速な意思決定が可能になるのが大きなメリットです。
4.SAP CRMの導入メリット
SAP CRMの導入メリットを3つ紹介します。
- 複数チャネルの顧客情報を効率的に管理できる
- 部門を越えた情報共有や活用によって効果的な施策を実施できる
- 拡張性が高くツールとしての性能を上げられる
SAP CRMが世界的にシェアの高いCRMである理由をメリットから読み解いていきましょう。
(1)複数チャネルの顧客情報を効率的に管理できる
SAP CRMの導入により、複数チャネルの顧客情報や問い合わせを効率的に管理できます。
チャットフォームやSNS、メールなど複数のツールを随時立ち上げて問い合わせ対応していると、返信スピードも遅くなり顧客を待たせる可能性があります。
SAP CRMなら複数チャネルの問い合わせを一元管理できるため、速やかに顧客の質問や疑問を解消可能です。
また、情報の取り込みも自動的に行うことができるため、入力の手間を省くこともできます。
顧客情報の管理や問い合わせ対応を効率化することができるのが大きなメリットと言えるでしょう。
(2)部門を越えた情報共有や活用によって効果的な施策を実施できる
SAP CRMはあらゆる情報をデータベースに格納できるため、部門を越えて情報共有できます。
マーケティング部門で商談成功率の高いリードを選定し、営業部門へエスカレーションするなどの業務も効率化され、顧客情報をまとめてメールに貼り付けて送信するなどの手間がありません。
また、営業部門でもマーケティング部門がエスカレーションした根拠をシステム上で確認できるため、双方で納得のいく引き継ぎができるでしょう。
これにより、マーケティング施策に基づいた営業活動の最適化など、部門を越えた連携を強化することにつながり、効果的な施策を実行することが可能になります。
(3)拡張性が高くツールとしての性能を上げられる
SAP CRMは拡張性が高く、ツールとしての性能をカスタマイズにより上げられる点がメリットです。
導入後にもSAP社のエンハンスメントパッケージを利用すれば、容易に拡張が可能となります。
また、APIによる外部との連携も可能なため、既存システムと連携してより使いやすいシステムにアップデートできます。
CRMツールと外部ツール・システムの連携方法やメリットについては、以下の記事でも解説していますので、合わせてご参照ください。
5.SAP CRMの導入デメリット
SAP CRMの導入デメリットも把握しておきましょう。
- 高機能がゆえにうまく活用できない可能性がある
- 導入時のカスタマイズや設定に時間がかかる
SAP CRMは大規模事業者に多く導入されている高機能なCRMだけに、導入難易度が高い点がデメリットです。
(1)高機能がゆえにうまく活用できない可能性がある
SAP CRMは高機能なCRMですが、それゆえに機能が多すぎて活用が難しいという難点もあります。
顧客数が少なかったり、シンプルな業態の場合はそもそも不要な機能が多すぎて使いづらい場合もあります。
基本的にSAP系のシステムは大企業向けに作られているため、事業規模が中小の場合は他のCRMの方が使い勝手は良いでしょう。
中小企業でも利用しやすいCRMの情報は、以下の記事でまとめています。
(2)導入時のカスタマイズや設定に時間がかかる
SAP CRMは導入前のカスタマイズや設定に時間がかかるのがデメリットです。
システムの要件定義や導入前のヒアリングも綿密に実施する必要があり、また改修にも時間がかかります。
とあるITベンダーがSAP導入に着手した際に、システム移行に2年間の期間を要したという事例もあります。
さらに、従業員がSAPを使いこなすための研修が必要になるなど、導入までのハードルは高めといえるでしょう。
また、近年ユニ・チャームやグリコがSAPのERPへの切り替えに失敗し、一時的に出荷停止をせざるを得ないという事態も起きています。
データ移行の問題が発生してシステム自体が使えないような事態も起こりえるため、導入については慎重に検討しましょう。
6.SAP CRMの料金プラン
SAP CRMは基本的にクライアントの要望に合わせてカスタマイズして導入する形式のため、決まった料金プランがありません。
社員が少ない中小規模が導入した場合は3,000万円程度ともいわれています。
そのため、導入を希望する場合や見積もりを見たい場合は問い合わせが必要です。
7.SAP CRMを導入する際の注意点
SAP CRMを導入する際の注意点を3つ紹介します。
- 専門知識を持ったITチームを整える
- 導入目的を明確にしてから運用を開始する
- 保守費用なども検討してから導入する
高機能なSAP CRMの扱いには、専門的な知識を持ったチームが必要です。
システムの導入に経費をかけただけにならないよう、紹介する3つの注意点を意識して運用しましょう。
(1)専門知識を持ったITチームを整える
SAP CRMを導入する場合は、自社に専門知識を持ったITチームを整備しましょう。
SAP CRMは設定や扱いがやや複雑であり、専任のITチームがなければ運用自体が難しいです。
そのため、ITに強いリソースの確保とチーム体制を整えてからの運用をおすすめします。
(2)導入目的を明確にしてから運用を開始する
SAP CRMを導入する前に、自社の導入目的を明確にしましょう。
SAP CRMは多機能でさまざまな領域の業務をカバーできますが、それゆえに導入後にどの課題解決に力を入れて良いかわからなくなるという事例がよくあります。
例えば顧客対応の質を向上させたいのであれば、まずはCRMによる顧客問い合わせ管理機能を活用して問い合わせ分野の業務改善をするなど、集中して課題解決に取り組みましょう。
一度に全ての業務を改善しようとすると、部署間の連携やフローの変更により現場に負担がかかります。
導入目的を幾つかリストアップして優先度を決めてからSAP CRMを導入し、優先度順に業務改善に取り組みましょう。
(3)保守費用なども検討してから導入する
SAP製品は契約後もライセンス料に応じて、保守費用を支払う必要があります。
ライセンス料はプランやユーザー数によって異なりますが、ユーザー数が多い企業ではかなりの額の保守費用がかかります。
システムの導入後もライセンス使用料や保守費用がかかるため、運用コストも考えて導入すべきか検討しましょう。
まとめ
SAP CRMはドイツ製のCRMツールで、非常に多機能かつ最先端の技術を有した優秀なシステムです。
しかし、多機能かつ複雑な設定が必要なため中小規模の企業にはオーバースペックになりやすく、また高額な開発費用や維持費用により導入を断念する企業も多いです。
安易に知名度でSAP CRMを選ぶのではなく、費用面や機能面をよく検討してSAP CRMを検討するようにしましょう。
もちろんSAP CRMは世界的には中小規模の企業でも導入されており、業務改善に成功しています。
導入前に自社の目的を明確にすることや長期的な目線で導入の準備をすることで、不要なトラブルを避けて自社にSAP CRMを導入できます。
記事の内容を参考に、SAP CRMの導入を検討してみましょう。